トヨタ式「改善」を9年ぶりに読み返してみた

今回は9年ぶりに若松義人『トヨタ式「改善」の進め方』(PHPビジネス新書)を読んでみました。過去に影響を受けたと思われる本やゲームを振り返って自分の思い込みと向き合うこの企画では、初のビジネス書読み返しです!

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トヨタ式「改善」の進め方 を読み返すきっかけ

私は昔この本から、超一流でさえ「常に改善」を絶やさないのだから、自分も常に自分を改善し続けなくてはいけないはずだ…という謎の影響を受けたであろうことがわかっています。

先月、昔のゲームをプレイしてみて印象がかなり違ったという体験をしてから、色々書き出して考えていたとき、

どうしてそんなに昔の自分は、自分を改善し続ける必要があったのだろう?
「改善」という単語はどこからきたのだろう?

と思ったのです。

昔の私は、自分を改善しなくてはいけない、と精神的に追い詰められていました。

昨日より今日、今日より明日。今日は昨日より~と満足してそこで止まっては終わりだ。満足して止まってしまえば時代の波に飲まれて消えてしまう。そうならないために常に改善をし続け、惰性な気持ちを封じ込めてあらゆるムダを減らし、時と場所と立場に合わせて求められるうちで最高のパフォーマンスを示し続けなくては──と私は追い詰められていきました。まあその結果の一度目が適応障害であり、二度目がうつ状態です。

ここで、「トヨタ式」という単語が浮かびました。

でも、本当にこの本にはそういうことが書いてあったんだろうか?私が曲解しているだけではないのだろうか?と思い立ったのです。

ロマ剣でも過去に思っていたイメージと全然違う印象になったものもあったので、きっとトヨタ式も今読み返せば新たな気づきが得られるはず!です。笑

「トヨタ式改善」「トヨタ生産方式」とは?

トヨタによると、改善=知恵を出して良くすること。

改良=お金を出してよくすること
改善=知恵を出してよくすること

トヨタ生産方式=現場で働く人たちがみずから問題に気づき、みずから知恵を出し、みずから改善を行うこと

いいな~そんな考えを上から下まで浸透させてくれる企業はいいなあ。

どんな人であっても困った状況に陥ればみんなで知恵を振り絞って切り開いていくことができるという人間の可能性を信じるのがトヨタ式の基本だそうです。まあ、困った状況に置いて知恵を出させろ(電子書籍版no.2113/2187参照)というのはちょっといかがなものかと思いますけど…。

さて、著者の若松氏によると、トヨタ生産方式は50年以上も存続している制度だそうです。こんなに長く採用され続けてきた理由は、この制度の根幹には、「自己実現」や「チームワーク」といった人間本来の高次元の欲求を満たすものがあったからだとされています。ちょっとむずかしい表現ですね。

つまり、その場しのぎとか数字とか会社がナントカじゃなくて、その制度を通して従業員自身が精神的に良い経験を得て成長できるからこそ、みんなが望んで採用し続けていたってことなのでしょう。

多分ですが、“高次元の欲求”というのは、「マズローの自己実現論」──要求5段階説と言われるもので言うところの5段階目の「自己実現の欲求」のことではないかと思います。人間はまず、ご飯食べたいとか睡眠とかみたいな「生理的欲求」があり、次に健康の維持などの安全性についての「安全の欲求」があり、次に「社会的欲求」「承認欲求」と続き、そこまで満たされた人がさらに次に求めるものが「自己実現の欲求」です。4段階目までが満たされた人間が感じる不満、それは、自分の能力を最大限に発揮して何かになりたい、何かを成したいという欲です。

トヨタ式は「トップダウン」

さて、トヨタ生産方式の特徴は、経営者によるトップダウン方式(=会社や組織の上位層が意思決定をして下位層に命令する方式)であることです。

それに対して、これは本には書いてない私の私見ですけど、トヨタ式改善のボトムアップバージョンではないかなと感じるのは、リーダーシップ教育です。リーダーシップ教育を受けて育った高校生や大学生は、

「変化の激しい環境で成果を上げるには、職位にかかわらず、最初に必要性や課題に気付いた人が、周囲に働きかけ、率先して動くことが不可欠である」

というような考え方を学びます。

どちらも理念としては同じ。最小単位の労働者であっても、どうしたらより良い仕事が行えるかを自ら考え、人と共有し、実現することを求めるのだから、理念としては同じです。

トップダウンで“改善”だ!ボトムアップで“リーダーシップ教育”だ!これからの時代のイノベーションにはこういう理念が必要だ──という風に、相互に良い影響を与え合う理論のはずです。理論上は。

読み終わって気付いたのですが、この本は、やる気のある経営者や心ある管理職に向けて書かれた本なのです。ですから、この本は、トップが無能である可能性や、改善を申し出た社員を上司が潰す可能性を、最初から排除されて書かれています。

……まあ、ちょっとそれについてはここでは割愛して、この本についてもう少し詳しく読み返していきたいと思います。

「改善」する理由

トヨタ式改善に関する名言では、元副社長の大野耐一氏の言葉が多く引用されます。

「昨日のことは忘れろ。明日のことも考えるな。今日が悪いんだと考えろ」 とは、大野耐一氏の言葉だ。

昨日と比較して、「今日はこんなにできるようになった」と満足すると、そこで改善は止まってしまう。

今日やっていること、今やっていることが悪いんだと常に考え、改善に取り組む。ムダを探すこと、改善することは一生の仕事であり、「昨日より今日、今日より明日」と一歩ずつ歩み続ける。いったん改革に着手した以上、経営者にはこれだけの強い意思と覚悟が必要になる。

電子書籍版No.1494/2187

この部分なんですけど、言葉がキツイので、客観的に読み解いて落ち着いて理解を深めたいと思います。

まず、今日は通過点にすぎないので、昨日より今日良くなったということに満足してそこで改善を止めてはいけない。

つぎに、ムダを探すこと、改善をすることは一生続く仕事であり、毎日歩み続ける。終わりはない。

そして、今やっている「こと」、今ある「こと」は「悪いんだと常に考え」というのは、言葉通りに「こと」や悪いという「悪」ということではなく、今やっている“方法”にはまだ“改善の余地があるのだという意識をもつよう常に心がける”、ということではないかと思いました。

「改善」は“矯正”ではない

どういうして言葉通りではなく意図を読むのかというと、「今日やっていること、今やっていることが悪いんだと常に考え、改善に取り組む」を言葉通り捉えてしまうと、毎日苦しむことになってしまう。どんなに改善に取り組んでも今日が悪であることに変わりはないみたい。性悪説です。自分が悪であり続ける前提で、自分を矯正しなければいけないかのようです。

しかし、トヨタ式改善の基本は、どんな人であっても困った状況に陥ればみんなで知恵を振り絞って切り開いていくことができるという人間の可能性を信じることだ、と本にも書かれています。 性悪説だから改善するわけではない。

「改善」の対象=◎組織 ×個人

最後まで読み切って改めてわかることですが、「改善」の行動を行うのは個々の従業員であるものの、従業員本人の人間性も同様に改善しろとはどこにも書いてないのです。あくまで改善するのは組織やものづくりの方法や工程などが対象であり、人間の性格や性質や行動理念を改善しろということは書いていないのです。

ですから、この本には、従業員が組織の「改善」のために自らを切り詰めて追い詰めて壊れるような”人間の“改善案を実行し、それを上司があいつが勝手にやったことだとする可能性については書かれていません。

あくまで「改善」するのは、自分たちがムダではないかと感じる工程があるからだし、お客様目線で考えたら改善する場所があるはずだと感じるからだし、組織に関する改善案を出すように育てるのだから個人を改善することは含まれていないのです。

すなわち、トヨタ式の本を読む時には、これは組織や工程に関する本であって、人間に向ける本ではないということは理解しておく必要がありました。語調が強かったからか、大学受験で失敗したトラウマがあったからか、親友を失ったばかりだったからなのか、愚かにも昔の私はそこを混同してしまった。

トヨタ式は人間が知恵を出せる可能性を信じて”組織の”改善を掲げているのに、その本質を受け取れず…

強い台詞のインパクトだけを吸収して、性悪説に立ち、”自分という個人を”常に改善し続けなければいけないのだ、そうでなければ一流にはなれない、激動の時代に生き残れないのだ、と自分を脅し続けてしまったのだとわかりました

男性性ビジネスの考え方

先程私は、トヨタ式改善に関する大野氏の名言を3点に整理しました。

  • 今日は通過点にすぎないので、昨日より今日良くなったということに満足してそこで改善を止めてはいけない。
  • ムダを探すこと、改善をすることは一生続く仕事であり、毎日歩み続ける。終わりはない。
  • そして、今やっている“方法”にはまだ“改善の余地があるのだという意識をもつよう常に心がける”。

さて、これらの考え──、終わりがないことや、歩み続けることや、満足してはいけないといったこと、「山登り」に似ている感じがします。

みちよさんの著書によると

男性性は例えると山のようなもの
山の頂上(目標・ゴール)に向かって努力して頑張ることを好む
上下に対する競争意識を強く持つ
自分の力で誰かの役に立つことを好む

同じく、タマオキアヤさんの著書でも、男性性ビジネスについて

感覚を信じるよりも戦略を立てる
助け合うより競争する
過程よりも、成果や利益を優先する
今に満足するより、将来を見通して行動する
苦手なことは克服する
どう感じるかより何をするかが大切

とあります。

大野氏の著書は1970年代に出版されていますから、まさに昭和時代の組織と男性性ビジネスなのでしょう。

さて、今はもう令和になり、2020年にもなりました。

様々な本を読んでセミナーに行って、ここ3年近く自分でも実験をして、やはり感じるのは、男性と女性の成功法則は違うので、男性の成功法則──「こうすると成功する」という「行動」を真似てはいけないということです。タマオキアヤさんがブログに書いていた通り、「男性の成功法則を真似るときには、行動ではなく意図を真似る」ことが大切だと感じます。

トヨタ式改善から(私が)学べる意図

あっ。私が学べる意図であって、本書の評価ではありません。

1.理念や本質◎

まず、理念や本質は誰にとっても良い学びになると感じました。
「人間が知恵を出せる可能性を信じて改善を掲げる」ということです。
ここに主軸を置くだけなら、男性も女性も関係ない。組織も個人も関係ない。

2.具体的な行動△

そして、具体的な行動について。
トヨタは個人自身を改善しろとは書いていないということ。
本書が組織に関するビジネス書であることを念頭に置いて、「自分という人間を改善しろと言われているわけではないよ」と、一言自分に声掛けしてあげる必要はありました。

3.ビジネス論△

最後に、この考え方は男性が多い男性性ビジネスにおける組織論であるから、女性に向いたビジネススタイルとは違うかもしれないというところです。
ですから、最初の理念に関しては学びになりますが、実際の行動に関しては、女性性ビジネスにおける組織論では違う行動の方が効果があるのかもしれないなと思うにとどめようと思いました。

おわりに

この記事でつらつらと書いてきた話は、9年前に私が著書内の一部の強い表現を変な受け取り方をしてしまったことに原因があるので、トヨタさんが悪いわけでも大野さんが悪いわけでもありません。 そして、最後の部分も、今の私が学べる意図であって、本書の評価ではありません。

こうして改めて読み返して思い違いを整理してみると、たしかに思い違いはしていたんだけど、当時気付けたかっていうと無理だったんじゃないかなあと思います。

当時の自分は、何でも貪欲に、一理あると思うものからは成功法則やテクニックを得ようとして必死でした。組織運用の話でも、個人に活かせると思ったのだと思うのです。
今の自分だからこそ、「常に改善」の「改善」は組織の話であって、そのやり方を個人にも準用すれば個人も常に改善されてよくなる!ってわけではないって落ち着いて読めるのだと思います。

ああ、読み返してみてよかった。
これで、時々聞こえてくる“改善お化け”の囁きをやっと止めることができる気がします。

やっぱ昔影響を受けたものの読み直しって必要だわ。

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